声を高くするのも口を大きく開けるのも間違い!本当のボイトレはこちら

column 2025.5.10

今回のテーマは「話し声を良くするボイストレーニング」

「声を良くしたい」「自分の声にコンプレックスがある」
私のもとにもこうしたご相談はたくさん寄せられます。

そして多くの方が、次のような対策をしているのではないでしょうか。

・声を明るくするために高い声で話す
・滑舌を良くするために口を大きく開ける
・はっきり聞こえるように一音一音クリアに話す
・口角を上げて話す

こういったアドバイス、よく見かけますよね…。
しかし、実はこれらはすべて、「話し声を良くする方法」としては誤り…!

今回は、本当のボイトレ をご紹介します!

 
 

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声を高くすると明るくなる?

 


 

「高い声=明るい声」と思って、声のトーンを上げる人が多いですが、実際にやってみると「ぶりっこ」に聞こえたり、軽い印象になりがち。
また、裏声を混ぜて無理に高くする場合は、さらに不自然さが際立ちます。

かつて私も、電話オペレーターのアルバイトで「ドレミファソの“ソ”の音で話す」や「普段の声より2音上げて話す」といった研修を受けたことがあります。
 
今振り返ると、当時の私の電話の声は「いい声」というより、不自然な声で、お客様によく「機械の録音かと思った」と言われました。

 
 

口を大きく開ければ滑舌が良くなる?

 


 
これもまた誤解されやすいポイント。
 
確かに「口腔」と呼ばれる口の中の空間は、ある程度広く保つことが必要ですが、外側の口(唇)を大きく開けると、かえって発音しづらくなります。

たとえば、「ラリルレロ」のような音は、舌の繊細な動きで作られるため、大きく口を開けることで舌のコントロールが難しくなり、逆に滑舌は悪くなります。

滑舌を良くするには、「大きく開ける」ではなく、唇の開きは小さく、唇も舌も細かく滑らかに動かすことが重要です。

 
 

一音一音クリアに話せば伝わる?

 


 
「一音一音はっきりと」もよく聞くアドバイスですが、これも残念ながら逆効果。

実際、「イ・チ・オ・ン・イ・チ・オ・ン・ク・リ・ア・ニ」と話すと、ロボットのようで非常に聞きづらいですよね。

自然な話し方には「調音結合」と呼ばれる、音と音を滑らかにつなげる技術が必要です
 
「こんにちは」も「こ・ん・に・ち・わ」と分断せず、「こんにちわ」とリズム良くつなげてこそ、自然で聞きやすい日本語になります。

 
 

口角を上げるといい声になる?

 


 
口角は、上げたまま固定して話すと、ぎこちなく、不自然に聞こえます。

新人アナウンサーにありがちですが、ずっと同じ笑顔を保ったままの話し方は、聞く人に違和感を与えがち。
 
声の明るさは、無理な笑顔ではなく、自然な感情を伴った声で表現するものです。

 
 

かつての私の声

 
 

なにを隠そう、私は上記の4つ、すべてやっていました…。

入社3年〜4年目ごろまでずっと、声を高くし、口を大きく開け、一音一音はっきりと出すことを心がけ、口角をぐっと上げながら、放送に出ていたのです。

自分の声にコンプレックスがあり、良い声になりたくて必死でした。
 
しかし、声が明るいと評価されることはなく、「変な声」と言われたり、単に「下手」と指摘されることもよくありました。

特に滑舌が悪く、「ここで1曲お聞きください」が言えず、何十回も録り直しをしていました。

入社4年目の途中、お仕事をご一緒した声優さんに「本番より普段の声のほうがいい声だよね」と言われたことが転機に。

声の高さを普段と同じにし、口の開きを小さくし、”一音一音”を意識するのをやめ、口角の意識もなくしたら、一気に話しやすくなり、それまでと真逆で、声で評価をしてもらえるほどになりました。

 
 

「いい声」の条件とは?

 


 
どうすれば「いい声」になるのかを紐解くために、どんな声がいい声なのかを考えていきましょう。
 
 

私が考える「いい声」には、次の4つの条件があります

1. 身体的負荷が少ない
2. 性格のいいところが出ている
3. 自然体
4. 生きるエネルギーが感じられる

ひとつずつご説明します。
 
 
1. 身体的負荷が少ない
喉に力を入れて無理に声を高くしたり、低くしたりすると、聞く側にも緊張が伝わり、魅力が損なわれてしまいます。
人はそれぞれ出しやすい音程は異なります。
自分の体に合った音程の声を出すことが、最も聞き心地の良い声になります。

 
 
2. 性格のいいところが出ている
声には性格が出ます。
性格の良くないところが声に出てしまっていたら(たとえば声が高圧的、偉そう、あまりに小さいなど)、修正が必要。
 
ただ、どちらかというと内向的な方が「明るく元気にハキハキと」を意識してしまうと、別人を演じることになりがち。
内向的な方であれば「穏やか」「落ち着いている」「優しい」そんな印象の声になれば、魅力的です。

 
 
3. 自然体
声にはメンタルの状態も表れます。
緊張すると、声が上ずったり、震えたり。不安になると、力んでしまいます。
 
マインドコントロールも重要ですし、人前で話すときも朗読調にならないよう、話し言葉で話すことをおすすめしています。

 
 
4. 生きるエネルギーが感じられる
声には、その人の「今」が表れます。
その日の体調、気分、自己肯定感もにじみ出てくるもの。
 
つまり、健康でいること、健康に気を配ることも重要です。
また、自分と向き合い、自己肯定感が高まれば、自然と感情を表出した抑揚になります。
 
さらに、声と向き合いトレーニングを重ねると、1〜3を達成した上で、響きや艶、芯のある声を目指すこともできます。

 
 

「いい声」になる方法

 


 
ではどうしたら、上記の「4つのいい声の条件」に当てはまるような、いい声になれるのでしょうか。

 
 
答えは「心・技・体」です。
 
 

「心」
自己肯定感が低い方は認知行動療法などの心理療法も効果的です。
 
また、人前でも緊張しすぎないようスピーチトレーニングを重ねることや、別人を演じるのではなく、普段の自分の声を生かすこともポイントのひとつです。

 
 
「技」
話し方の分野とも重なりますが、人前でも「話しかける」ような話し方をすると、声も自然体で魅力的になります。スピーチトレーニングはボイストレーニングでもあるのです。
 
また、発声テクニックとして、腹式呼吸で、いわゆる「お腹から声を出す」方法を身につけることも効果的。

自分の録音を客観的に聞くことができるようなスキルも必須です。

 
 
「体」
呼吸や姿勢はもちろん、全身状態を整えることも、「いい声」に繋がります。
私は全身と上半身のストレッチ、さらに肩甲骨を動かす体操なども取り入れています。
 
また、普段声を出す機会がほとんどない方には、生成AIが相手でも構わないので、まずは「話す」ことをすることで、発声に関する筋力を落とさないようにすることを薦めています。
 
 

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まとめ

 
 
✔ 「口を大きく開ける」「声を高くする」は都市伝説!

✔ 自分の出しやすい音程で、自分のいいところが出る声に

✔ スピーチトレーニングはボイストレーニング

そもそも自分の声は変えられないとあきらめてしまっている方もいますが、声は変えらえます!
それも、他者の真似をした声ではなく、自分の”いいところ”が表れる声に。

声の悩みの問題が発声方法なのか、呼吸なのか、メンタルなのか、あるいは言葉選びや構成なのか、原因はさまざま。
 
まずは一度ご相談ください!
 


 

参考資料
講義「音声学入門」(前川喜久雄)/言語学レクチャーシリーズVol.2(国立国語研究所YouTube)

参考図書
和田美代子(著), 米山文明(監修) 2012 『声のなんでも小事典―発声のメカニズムから声の健康まで』 講談社・ブルーバックス
千葉勉(著), 梶山正登(著), 杉藤美代子(翻訳), 本多清志(翻訳) 2017 『母音 その性質と構造』岩波書店(『The Vowel: Its nature and Structure』(1942)の全訳)