「日本語を正しく使いなさい」と指摘されたら読むコラム-変化する言葉の本質

column 2025.4.03

今回のテーマは「正しい日本語」とは何か

皆さんは「正しい日本語を話しなさい」と言われたことはありますか?
 
私はSNSで「〜さんとご飯に行く」という表現を使った際に「『ご飯に行く』なんて日本語じゃない。アナウンサーは正しい日本語を使うべき」といったコメントをいただいたことがあります。

そもそも「正しい日本語」とは何なのでしょうか?
講師や先輩に「正しい日本を話しなさい」と指摘されたらどうしたらいいのでしょう?
もし、自分が講師や先輩として指摘する立場になったら?

「正しい日本語」の「定義」を紐解くことで、お悩みを解決します!

 
 

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どの時点の日本語が正しいのか

 


 

言葉は時代とともに変化するもの。
 
辞書は定期的に改訂されますが、過去の辞書が間違っていて、新しいものが正しいわけではありませんよね。

これまで、日本語の発音や表記はさまざまな変化をしてきました。
さかのぼれば、奈良時代と平安時代でも異なっています

たとえば、「コ」の発音。

『万葉集』(奈良時代末期に成立したとみられる日本に現存する最古の和歌集)は「万葉仮名」で記されていますが、

「恋」(こひ)は「古比」「故非」「孤悲」
「衣」(ころも)は「去呂母」「許呂毛」

と表記されています。

「こ」に着目すると、「こひ」の「こ」と、「ころも」の「こ」とでは、 使う万葉仮名のグループが違うため、当時は異なる音であった可能性が高いのです(日本語学では「コの甲類」「コの乙類」と区別しています)。

その区別は平安時代には消滅し、平仮名と片仮名が生まれ、「こひ」の「こ」も、「ころも」の「こ」も、「こ」あるいは「コ」になりました。

言語において、変化する前のほうが正しいとする見解を見かけますが、そうだとすると、平安時代にはもう間違っていることになってしまいます。

 
 

話し言葉と書き言葉

 


 

日本語には「話し言葉」と「書き言葉」があります。
 
明治時代の言文一致運動で、それ以前の時代よりは両者が近づきましたが、現在も完全には一致していません。

例えば、書くときは「間違っている」と書きますが、話すときは「間違ってる」と言っても問題ありません(「母音の脱落/縮約」は話し言葉の特徴)。
 
私五戸の出身は埼玉県ですが、書くときは「私の出身は埼玉県です」と書き、話すときは「埼玉の出身なんです」と話すことも、「私、出身埼玉なんです」と話すこともあります(助詞の省略、撥音化)。

もし「書き言葉が正しい」としてしまうと、話すときにも書き言葉のルールを守らなければならず、スピーチや会話が不自然になってしまいます。

「話し言葉」も「書き言葉」も、どちらも日本語
 
それぞれの場面で適切に使われるものであり、「どちらが正しい」という判断はできません。
 
 
冒頭で紹介した「ご飯に行く」は、書き言葉ではカジュアルに見えるかもしれませんが、「ご飯」は「米」の意味のほかに「食事」の意味もありますので、「ご飯に行く」という表現はあり、話し言葉ではごく一般的ですね。
また、SNSは話し言葉で記入することも多々あります(日本語学ではSNSの言語を「新言文一致体」とする考えも)。

 

標準語と方言

 


 

「標準語=正しい日本語」と思われがちですが、日本には公式に定められた「標準語」は存在しません。
 
明治時代に設置された「国語調査委員会」等により、「標準語」は「東京の山手方言に基盤を置くこと」とされました。
 
その後、国立国語研究所の報告書『言語生活の実態』(1951年)で、「標準語」の定義は「なんらかの方法で国として制定された規範的な言語」とされ、「こういう意味の標準語は日本ではまだ存在しない」と記されています。

その一方、全国で通じる言葉もあり、その言葉は「全国共通語」略して「共通語」とされました。
 
方言も日本語なのです。
 
 
ただ、アナウンサーの場合は、社内規定等で共通語を使うことになっている放送局が多く、地方出身の方が東京の言葉を習得することは仕事のひとつとされています。
 
そういった特別な仕事でなければ、方言を使うことは他者に止められることではありません。

(なお、標準語の定義を「規範的な言語」ではなくもっと広義の意味で捉えるべきだとする研究者もいます)

 

「正しい日本語」が正しくない

 


 

いつどんな時も誰に対しても絶対に「正しい日本語」はありません。
 
つまり、「正しい日本語で話しなさい」という指摘に正確性がないと言えます。
 
 
なお、明らかに「間違っている日本語」はあります。
たとえば ”伝わらないケース” 。

⭕️「私は五戸美樹です」
❌「私に五戸美樹です」助詞が間違っている
 
 
あるいは、敬語が誤っているケースです。

❌「母がお召し上がりになります」
⭕️「母がいただきます」「母が食べます」

 
 
なおこれは、アナウンサーは正しい日本語を使うべきという考えに対するアンチテーゼではありません

むしろアナウンサーは言葉を丁寧に使うべき、慎重に使うべきと私は考えています。
言葉遣いに対して常にアンテナを張っておくのがアナウンサーだと思っていますし、それを煩わしいと思う方は、「アナウンサー」ではなく「タレント」を名乗ったほうがいいかもしれません。

 

指導する・される時は

 


 

後輩に指導する時に、「正しい日本語を使いなさい」と指摘できないのだとしたら、どう注意するのがいいのでしょうか。
 
 
私は生徒さんに言葉選びについて伝える時は、言葉の正誤ではなく、
「伝わる」か「伝わらない」か
「不快」か「不快でない」か
この2点を考え、「伝わる」「不快でない」言葉を選ぶことを勧めています
 
 

一方、自分が受講者で、研修講師が「正しい日本語を使いなさい」と指摘していたら、どうするのがいいでしょうか。
 
 
相手となんでも語り合える関係性がある場合は、上記のような説明をすることができます。
そうでないのであれば、バトルをする必要もないので、黙視するか、研修アンケートがあればそちらに感想を書くのもいいですね。
 
 

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まとめ

 

「正しい日本語」という概念は非常にあいまい。

✔ 言葉は変化するもの であり、「過去の日本語が正しい」とは言えません。

✔ 話し言葉と書き言葉は異なる ものであり、一方が正しくて他方が間違いではありません。

✔ 日本に「標準語」は存在せず、全国共通で使われる「共通語」があるだけです。

場面や相手に合わせ、適切な言葉遣いをすることが大事ですね。

 
 
参考文献
伊坂淳一さん 2016『新ここからはじまる日本語学』ひつじ書房
山口明穂さん鈴木英夫さん坂梨隆三さん月本雅幸さん 1997『日本語の歴史』東京大学出版会
国立国語研究所編 1951『言語生活の実態―白河市および附近の農村における』秀英出版