今年のにほんごコンテスト 結果発表
加賀市の山代温泉(やましろおんせん)が主催する「今年のにほんごコンテスト」。
今年も審査員を務めさせていただきました。
今年は”え段の言葉”を募集し、過去最多の応募をいただいたそうです。ありがとうございました。
先週末、”あいうえおの郷”山代温泉の薬王院温泉寺で結果発表が行われ、私は在宅で見守りました。
全入選作品はHPからご覧いただけます。
http://yamashiro-spa.or.jp/kotoba/
一般の部の一席は「縁(えにし)」。
コロナ禍での寂しさによって、縁の大切さが心に沁みるという投票コメントにも賛同が集まりました。
「縁」と書いて「えにし」。良い響きですよね。
縁は「えん」として、元々は仏教用語として日本に伝わりました。
(四縁のうちの「増上縁」に当たる)
「日本書紀」「風土記」では「縁」を「コトノモト」と読む用例があり、これは因縁由来の意であり、次第に仏教語からは離れて用いられるようになったようです。
「縁」は「えに」とも読まれるようになりました。
意味は同じ、「えん、ゆかり」です。
特に和歌で「江に」に掛けて用いられています。
「みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐり逢ひける縁(えに)は深しな」(源氏・澪標)
「えに」は、「縁(えん)」の中国音の「n」を「に」に写したもので、同じ用例として「銭(ぜに)」「紫苑(しをに)」があります。
「えに」に強めの助詞「し」が付いて「えにし」が生まれました。
「かち人の渡れど濡れぬえにしあれば」(伊勢物語・六九)
「えに」は単独で用いられることがまれになり「えにしあらば」「えにしあれば」などと「し」を伴うことが一般化し、次第に「えに+し」は一語化します。
伊勢物語や後撰和歌集がもととなって、「えにし」は特に男女の間柄を意味することが多くなったようです。
現代では特に男女の縁をイメージする方は少ないと思いますので、縁を「えにし」と読んでも「えん」と読んでも同じ意味といえると思います。響きの違いで読み方を選ぶことができますね。
日本語史の面白さを感じる良い言葉を選んでいただきました。
参考文献:『日本国語大辞典』、『全文全訳古語辞典』(小学館)